夜半にふと目が醒めた。
ふたり一日歩き疲れて、今日はここで休もう、と大木の根方に今宵の塒を定めたときは、もう足元も見えないほど暗かった。
身を寄せ合って横になったときにはまだ山の端から出たばかりだった月が、今は中天にかかって煌煌と輝いている。
ゆっくりと半身を起こした。夜空を仰いで、清涼な夜気を胸いっぱいに吸い込んだ。
ああ、こうして穏やかな心持ちで月を眺めることが、またできるようになるとは思わなかった。


月ごとに 流ると思ひし真澄鏡 西の浦にもとまらざりけり


太宰府の屋敷で師とともに眺めた古の月の明るさを想い出す。
月でさえ東に帰るのに自分には帰るところがない、と嘆いたあなたは、ひたすら都に帰ることを望んであの地で死んだ。
あなたに付き従ってあの世までも供をするつもりだった私を、この世に独り繋ぎ止めて。
あれから100年、月の明るい夜の度にあなたの嘆きを思い起こしては怨みに乱れたこの心が、しかし今はこんなにも平らかだ・・・


月は今でも明るいけれど。


傍で健やかな寝息を立てていた鬼同丸が、不意に寝返りを打った。
さやさやと梢を鳴らして、柔らかな風が渡っていった・・・




月    夜

龍井さまから、HP開設のお祝いに、美しいイラストを頂きました。
絵柄は蓮のリクエスト。蓮の駄文がちょっぴりついております。
龍井さま、どうもありがとうございました!

別館に、このイラストの前座として別館管理人が書いたSS「月夜」がございます。
併せて御覧下さい。