「秋川さん、ダンパ行かない?」
と、最近ちょっと仲良くしている友達に声を掛けられた。
が、即座に断ろうとした瞬間、肩越しに
「彼女が、そんなところにいくと思ってるの?私たちとは、違うのよ!」
という、とげのある声が聞こえ、思わず振り返った佐穂子の眼に、いつも彼女に対抗意識をもっている、数人の顔が見えた。
(何で・・・、私とあなたたちの何が違うって言うの?こんなにいち女子大生してるってのにぃ)

「行かないわ」と、言うつもりの口が、思わず違う言葉を吐き出していた。
「行くわよ。いつ?」

ああ・・・私、自分の口を呪うわ・・・・。
「今月の最終の日曜日。練習は、明日の5時から始めるんだけど、秋川さん来る?」
・・・・・
「ううん、教えてもらう当てがあるから」
ああ、私一体どうすればいいのぉ!!

「これチケット。一枚3500円だけど、何枚買う?」
友達の言葉に思わず2枚と指を出した私に、ちょっと驚いたような顔をしたけど、
「じゃあ、」

と、チケットを佐穂子に差し出す。
7千円を出して、チケットを奪うように貰い、くるりと背を向けた私に
「秋川さんて、彼氏いたんだ・・・」
と、呟くような複数の声が聞こえたが、無視して立ち去ることにする。

私って、いったい誰に教えてもらうわけ?

帰る間中、頭の中を<ダンス>の3文字が乱舞する。
聖は・・・踊れるわけないか・・・(あんたが、踊ってくれれば、問題ないのにぃぃぃぃ)
側近連中は・・・論外だわね!
三吾は・・・無理に決まってるわ!と決め付けるあたり、さすが分かっていらっしゃる。
達彦?日舞教えてもらうわけに、行かないし(おいおい)
後、可能性のあるのは・・・弓生?
でもでも、これってチャンスかしら?

「何で、あんたたちがいるの?」
佐穂子が来たのは、当然、鬼たちの住むマンション。処が、今日に限って、全員集合している。
「期末が終わったから。今日からおやすみ」と、のんきにコーヒーを飲んでいる、成樹。
「だって、土曜日ジャン、お前も飯食いに来たんだろうがーー」とのたまう三吾を蹴り倒して、我冠せず新聞を読んでいた弓生の前に、ツカツカと歩み寄り、新聞を奪う。

「弓ちゃんなら、踊れるで」
と、佐穂子の話を料理しながら聞いていた聖が、台所から即座に答える。
げげ!と思っている若干2二名を無視して佐穂子は勢い込んで弓生に言う。
「お・し・え・て!お願い」
佐穂子に、新聞を取りさられた手持ち無沙汰な弓生が、思わず俯いていた瞳を上げると、真剣な瞳がそこにあった。
<お願い、お願い、一生のお願い。あんな奴らに、負けたくないのよぉぉ!!>
弓生の気迫負け。
はぁ――と、周りに聞こえるほどのため息をつく。
「・・・いつまでに、踊れるようになればいい?」

―――そして、皆が巻き込まれることになったのは、必然的である―――

「何で俺が女役を練習しなきゃいけないんだ。」ブツブツ呟く三吾と、
「俺もどうせ踊るなら、弓ちゃんと踊りたかったわ」と、よろよろ踊っている二人。
足元からは、ぷぅぅんと、ほのかなシップ薬の臭いが漂っている。

「お兄ちゃんって、上手」「いや。綾乃こそ上手だよ」と、見ているこちらが恥ずかしくなるような二人。
何とか、様になって踊っている。いつもは団らんの間と化しているリビングが、机も椅子も取っ払われて、簡易ホールとなっている。

「そこは、クイックターンだ。何度行ったら覚える!」
「どうせ、私は物覚えが悪いわよ!」近寄ったら、バチバチと、静電気がおきそうな二人。オーラが立ち上って見えるのは、あながち、間違いではあるまい。
2週間後、何とか負傷者の出ないうちにダンパの前日がやって来た。

「佐穂子、明日着るもんきまっとるんか?」
「ううん」
答えながら、何で、こんな奴、好きになんかなったんだろう。と、にぱっと笑いながら佐穂子に問い掛ける聖をじっと見詰める。真っ直ぐな瞳。懐っこい笑顔。人を包み込む暖かい心・・・。
「な、なんや?」
佐穂子の視線に慄いた聖が、周囲に答えを求めるが、当然みなあさっての方を向いている。
「聖、佐穂子と買い物に言って来い!」

そして、当日。中央体育館の入り口付近が、ざわめいている。
「あの人たち、どこのサークル?」
「きゃーー。かっこいい!」
受付に、正装した長身の白皙耽美な青年と、大学生であろうか、カジュアルな雰囲気をまとってにこやかに笑っている若者、高校生らしい可愛らしいカップル。そして・・・赤毛の兄ちゃん。
皆、水準以上の容姿をしているが・・・共通点を見出すことは難しい一団が揃っていた。
誰も、声を掛けることをためらっている中、その異様な一団はホールへと入っていく。
都合よく、ワルツが流れている。
「誰が一番に踊ってくれるの?」

やっぱり、最初から足を踏まれたくないもの。くるくる回りながら、佐穂子は思う。でも、本当弓生って綺麗よね。軽く腰に回された手が、気にかかる。もうちょっと、ダイエットしとくべきだったわ。弓生の方が、細かったりして・・・嫌だ!冗談じゃないわ。

ほぉぉ、とため息が流れる。
優雅な、流れるようなステップ。真っ直ぐに伸びた背筋。かるく撫で付けられていた髪が、少し乱れて額に零れ落ちる。

「なんやあの二人、目立ってないか?」
ジュースを飲みながら弓生の姿を追っていた聖が呟く。
2曲踊ると、二人は暇そうに壁の花となっていた聖と三吾の元に、戻ってきた。
「弓ちゃん、今度は俺と踊ってくれるんか?」バキ!

「足踏んだら、承知しないからね」
頭をさすりなら、佐穂子に引きずられていく聖を見ながら、口にストローをくわえたままの三吾が天を仰ぐ。
「ご愁傷様」
そんな三吾をチラッと見た弓生は、口の端に人の悪い笑みを浮かべた。
「気配を感じないか、三吾」
そういえば、さっきからゾクゾクと寒気が・・・・。ふと周りを見ると、あわてて目線をそらせる複数の女の子達の姿が。これって、俺の誘いを待ってるってことか。思わず、内心でガッツポーズをとりながら立ち上がった三吾であったが、次の瞬間グラスの上にひれ伏すこととなった。
「俺、女役のスッテップしか、教わってないじゃん!!」

こうして、なんとか無事に終わったダンスパーティではあったが、佐穂子に次々とお誘いが来たことはいうまでもなく、それをぜ――んぶ断った佐穂子が、在学中<あのちょっと変わってる秋川さん>の名称を頂いたことは、仕様のないことであった。

でも、どこから情報を得たのか、佐穂子の釣り書き。趣味の欄に、社交ダンスの1行と、艶やかなドレスを来た佐穂子の写真が付け加えられたのは・・・。

恐るべし秋川の側近たち、であった。




Shall we dance

ご常連の白戸さまより、白戸さまが龍井さまから頂いたイラストと、御自作のSSをお預かりいたしました。
なんて素敵なかわいいお話とイラストでしょう!
不肖蓮が大事にお預かりいたします。