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雲 空を飛ぶ鳥。 自由に天を駆ける姿は、どこまでも自由で力強い。 見上げた空はひどく青くて、吸い込まれそうなほどに澄んでいた。 一つ、浮かぶ雲を指して晴明は高遠に問う。 『一体何に見えるか』と。 ごろんと草の上に寝転がっている晴明の、数歩後ろに控えていた高遠は素直に晴明の指の先を追い、これまた律義に答える。 『わかりません』と。 その答えを聞き、晴明はふぉっふぉっふぉっと笑い始める。 『何を笑っておられるのですか』 流石に自分の事を笑っていると理解できた高遠だが、笑う理由がわからない。 『いやなに、何でもない』 笑いをかみ殺した声で答える晴明に、それ以上何も言えず高遠は視線を空へと戻す。 天を舞う、1羽の鳥。 あれは……鷹? 優美な曲線を描きながら、力強く飛んでいく。 その先にあるのは……太陽。 『高遠』 不意に名前を呼ばれ、視線を戻す。 人であった頃の名を呼ぶ今の主人に。 横になったままの姿勢で、晴明は自らの横の地面を示していた。 『お前も横になったら良い。草の匂いは心地が良い』 少しだけ、いたずらっぽい表情で微笑みかける晴明。 『いえ、そんな恐れ多い事は出来ません』 『草の上に寝転がる事は恐れ多い事なのか?』 『そうではなくて…!』 真面目に答える高遠の反応を楽しむ様に続ける。 『では何が不満なのじゃ』 『ですから、貴方の隣というのが恐れ多いと』 『なんじゃ。ワシが退けば良いという事なのじゃな。すまんすまん』 ゆっくりと体を起こしかける晴明を慌てて止める。 『いえ、そうではないんです』 『じゃあ問題はないな?』 にんまりと笑う晴明に逆らう気力を削がれ、高遠はそっと息をついた。 『なんじゃ、溜め息などついて。辛気臭いのぉ』 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと笑う晴明の姿を見て、高遠は付いていく相手を間違えたのではと思う。 そもそも、付いていってはいけなかったのではないか。 あの時。 伸ばされた手を、つい掴んでしまった。 しかし。 自分が晴明に仕える事で、彼自身にかける迷惑を考えていなかった。 稀代の陰陽術師。その上、鬼まで手の内にあるとなった今。 彼に対する人々の尊敬と怖れは一気に高まっていた。 特出した力は人々に安心を与えるが、同時に不安を与えるから。 口には出さずとも、晴明自身にも負担がかかっているだろう。 『何を考えている』 出会った時と同じ、澄んだ瞳。 歳月は重ねたけれど、それだけは変わらない。 『遠慮せずとも隣に来ればよかろう』 『晴明さまっ』 慌てる高遠と楽しげに笑う晴明。 『何も考えずに、ただワシの側にいればいいのじゃ』 ふっともらした言葉に、高遠の手が止まる。 『お前が思うほど、ワシは弱くはないぞ』 ふぉっ、ふぉっ、ふぉっと笑うその声に。 高遠は何かを言いかけ、そしてうなづいた。
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