Candy Girl 当たり前のように夏が来て。変わりなく時は刻まれていく。一刻、一刻と時間は過ぎ去っていく。此方の都合なんかお構いなし。それはそうだ。時の流れを気にしているのは人間だけなのだから…… ピンクのアクセントが効いたいサンダルに紅いスカート。トップは短めのキャミソール。派手すぎないようにお化粧をして。普通の女の子のフリをして。 「バカみたい」 鏡を見て呟く。 「バカみたいよ」 望んでも、望んでも、望んでも。叶うことのない夢。優しいけれど、決して振り向いてはくれない。 綺麗な内装の化粧室。沈んだ顔をしながら口唇を噛み締めて。しばし目を閉じると溜息一つ。此処を出るときは笑わないといけないから。ちょっと怒った顔をして。いつもみたいに気丈に明るく振る舞わないとイケナイから。 「……よし」 目を開いて、佐穂子は口唇の両端を上げてみた。 久しぶりに二人で出掛けた。弓生が気を使ってくれて。素っ気ないのに優しい。心の機微に敏感で繊細で、脆い鬼。外見からして反則技なのに、内面まで反則だと思う。 「買い物って何買うんや?」 聖があたりのお店をきょろきょろと見遣りながら問い掛けた。別に買いたいモノなんてないけれど……乙女心を判って欲しい…… 「いいでしょ!折角だし色々と見ていきましょうよ」 場所は表参道。お洒落な店が沢山並んでいる街。一度は、二人きりで歩いてみたかった…なのに、この男は。 並木通りは木漏れ日が綺麗で、緑が目に優しい。絵画を売る人、アクセサリーを売る店、高級ブティック、オープンカフェでお茶をする恋人同士。この中で自分たちはどう見られるだろうか? トモダチ・シンセキ……それとも。 「コイビトドウシ?」 見られてる? 佐穂子は隣の青年を盗み見た。日に焼けた健康そうな肌。人懐こい顔立ち。背も高いし、格好いいと思う。 自分はどうだろう? この青年と釣り合っているだろうか? 聖は年相応の青年に見えるけれど、やっぱり長い年月を過ごしていると思わせる所がある。千年という長い月日を。弓生と二人で。 永かっただろう。 永遠とも思えるだろう。 自分が生きてきた年月なんて問題にならないほど。 「聖!」 「―――なんや?」 「あれ、買って。あたしに」 佐穂子は唐突に指を差し向けた。 (あたしの為に) お願い。ひじり。 「ええのか?もっと中にあるんちゃうのか?」 小首を傾げる聖。きっと考えても判らないだろう。このお気楽ノーテン鬼には。 「いいのよ」 「ほんまお前って硝子もん好きやねんなぁ」 小さな店構えの、硝子細工を専門にしてるお店。佐穂子が選んだのは紅玉色の綺麗な硝子の指輪だった。でも、あの時とは違うのは本格的にアクセサリーとして身に付けられるもの。デザインもちゃんとしている。 「いいの。そんなに高額なものは必要ないわ」 「ふーん。……あ。見てみぃ、あの黒いのユミちゃんに似合わん?」 黒水晶の輝き。ちょうど光が反射して佐穂子の瞳に眩しく映った。 「弓生にはそうねぇ、黒よりも藍系が似合いそうだけどな」 「そうか。そんなら、これも買うていこうかいな」 どうしてそうなるのだろう? 「聖。弓生が身につけると思っているの?」 「ええやん。ユミちゃんへのお土産や」 自分と一緒に居るのに。どうして相棒の事を考えているのだ? 醜い嫉妬だと判っている。聖にとって弓生がどんなに大事な相棒か判っているつもりだ。けれども。今、此処で弓生の話をして欲しくない。勝手な願いだと十分承知している。でも耐えられない。 「――――いいわよ。聖のバカっ」 佐穂子は紅玉の指輪を手放すと店を出ていった。 「バカバカバカっ!聖の大馬鹿っ。乙女の気持ちくらい判りなさいよっ。何年生きているのよー!」 大股で怒りオーラを振り撒きつつ通りを歩いていく。人とすれ違う度に好奇な目を向けられたが気にしている余裕はない。 「――――ばか…」 ふいに立ち止まって佐穂子は呟いた。どうしようもないバカ。何度言っても言い足りない。 つい溜息が出た。 と、立ち止まる佐穂子の前に一本のベルが差し出された。にこやかな女性が立っている。 「あなたもいかがですか?これから新郎新婦が出てきます。宜しかったらお祝いしていただけますか?」 「え?はい」 判らずにベルを受け取ってしまうと女性は微笑んでまた他の人へ声を掛けに行ってしまった。 「―――そうなんだ。ここ教会なんだ」 オープンカフェの奥に教会が見えた。ここで、結婚式を挙げた二人がいるのだろう。ベルには可愛らしくリボンが結ばれている。佐穂子は何気なく鳴らしてみた。 リィン…リン…リィーン…… 「佐穂子!」 名前を呼ばれて振り向くと人垣の外にひょっこりと顔を覗かせる聖がいた。背が高いとこういう時に便利だなって思う。聖は人垣をかき分けて寄ってきた。 「おまえ何してんねん?」 「なんか結婚式があったみたいなの。で、お祝いして下さいって……」 「へぇ?こないなトコでなあ。だからこんなに人が多いんかい」 佐穂子はふっと笑ってしまった。 「なんかおかしいね。知らない人なのに祝福しちゃうなんて」 「そか?ええ事やろ」 聖は目出度い雰囲気に感化さえてウキウキとした表情をしていた。いつでも聖は気持に正直で隠さない。 「そや。見てぇな」 ガサゴソと聖はポケットから袋を取り出して手のひらに中の物をコロコロと乗せた。 紅玉色、藍色、翠玉色、黄水晶、海柱石、碧玉と色とりどりの硝子の指輪。 「やだ、どうしたのよ。そんなに沢山」 佐穂子は驚いて聖を見上げる。 「ん?ええやろ。これは佐穂子のな」 と紅玉の指輪を指差す。 「この藍はユミちゃんで、緑のは三吾。黄色は達彦やろ?んで水色が成樹。青いのは俺や」 次々と指輪を指して誰のためのモノなのか説明をし始める。 「……あんた。達彦の分まで買ってきたの?」 呆れたと言わんばかりの佐穂子にカラカラと笑って見せて聖は袋に指輪を戻していった。 わぁっと回りに声が上がった。 新郎新婦が奥のチャペルから姿を見せる。 純白のウェディングドレスに身を包んだ女性は幸せそうに微笑み、隣の男性に寄り添うように歩いてくる。幸せそうな二人に佐穂子まで自然と笑みがこぼれていた。 ベルが鳴らされ、佐穂子も二人の門出を祝福した。 いつまでもシアワセでいられますように。 「佐穂子、ちょいとええか?」 聖がジッと新郎新婦に見入っている佐穂子に声を掛けて、腕を掴んだ。その手を自分の方へ引き寄せて、手首を掴む。視線を転じた佐穂子はその刹那目を瞠った。 すっと指に通される紅玉色の指輪。色の割に涼しげだ。 「――――ありがとう、ひじり」 自分は笑えているだろうか?佐穂子は少し俯き加減で呟いた。 軽く手を握って硝子の感触を確かめる。 聖はにこやかに笑って佐穂子を連れて歩き出した。 と。此処までは良かったのに。 「もー!聖なんて知らないっ」 再び佐穂子は店を飛び出していく。 「なんでなのっ?なんで此処まで来て弓生の洋服なんて選んでるのよー!バカっ」 「佐穂子またんかい!これ買うてから行こうや〜」 賑やかな二人の声はお洒落な街に木霊する―――― 「なんや佐穂子、トイレに行きたかったん?遠慮せずに言わなあかんで?」 この男はっ。 「バカ!何いってんのよ。サイテーよぉ!バカ聖っ」 佐穂子は容赦なく聖の背中を叩くとさっさと化粧室へ駆け込んでいく。 硝子の指輪をさり気なく胸に抱いて。佐穂子はドキドキしている自分を落ち着かせようと大きく深呼吸した。目元に涙が浮かんでくる。 「ほんと、バカなんだから……」 ほんのりと染まる頬、小さな幸せを噛み締めて佐穂子は呟いた。 琥珀さまから、爽やかでキヨラカなお話を頂きました!(「初ノーマル」だそうです。) 佐穂子ちゃんの思いが可愛らしくてちょっぴり切なくて素敵です〜 琥珀さま、どうもありがとうございました!! |